もう一人の少女 23
「誰でもないあなたの名前を、教えてくれ」
ただ茫然と、その言葉を聞いた。
エラではない、私だと。そう言ったのだこの人は。
全力で、エラではないのかと言った言葉を否定してくれた。
求めているのは、私だと。
…──そして、求めて呼ばれることの無かった、私の名を。
「…明、日香。私はアスカッ」
そう返せば抱きしめられる腕の力が強まり。
息苦しいくらいに力をこめられて、でもそれが酷く心地よくて。
その背中にゆっくりと手を添えた。
…見つけ、た。
「…アスカ」
静かに確かめるように名前が呼ばれる。
背に回す手に縋り付くように力を込めた。
「アスカ」
…やっと、手に入れた。
確かに力強く言われた自分の名前に、その声に込められた響きに。
今度は本当に満たされた様な気がして。
─…明日香は、静かに涙を流した。