物語の世界 05


彼女はやっぱりお人好しだった。
ベットは良いというのに、貸すと言って来た。話し合いで結局二人でベットに寝ることになった。
「ごめんなさい。狭いでしょう?」
「いやいやいやいや!! 全然そんなこと無いよ、と言うかそんなこと言える立場じゃないしね」
エラはなおも少し申し訳なさそうな顔をしている。
なんて言うか、むしろこっちは罪悪感が芽生えてくるよ。
あの後いろいろ話をしたけど、とっても可愛い女の子だった。
なんて言うか、守ってあげたい女の子? 同じ顔なんだけども。
──でも少し時々思う。
この子も無理をしてるんじゃないかと。
「…エラはさ、今辛くない?」
そう聞くと、エラはキョットンとした顔でこちらを見る。
そして、少ししてから穏やかに言葉を落とした。
「…今の生活が苦しくないと言ったらそれは嘘にです。
 家事は好きです。でも、今のお義母様達との暮らしはやっぱり辛い」
言葉が足りてなかったけど、シンデレラの大まかな内容を知っているからその言葉の意味を直ぐに理解できた。
口を開こうとした私はエラの顔を見て口をつぐんだ。

エラのその表情は明日香から見てとても幸せそうに綻んでいた。
「でも、私には支えてくれる人が居ますから」
エラは「だから平気です」と明日香に笑いかけた。
明日香は訳が分からなくなり戸惑ったように声を出す。
「支えてくれる人って…?」
「えっと、恋人…です」
真っ赤になって言うエラに明日香の頭はさらに混乱する。
…─どういう事?だって、夢ではグランが刺されてエラがつれて行かれ…
「あ…」
明日香は思いついた答えに、唖然とした。
何で気がつかなかったんだろう。
エラは王子に連れて行かれたんだから、ここに居るわけ無いじゃない。
でも、居るって事はまだあれ≠ヘ起こって無い出来事って言うこと。
「グランって言うんですけど、すっごく私のこと考えてくれて…。
 ここを一緒に出ようとまで言ってくれるんです。彼が居るから、耐えられます」
グランは死んでないし。舞踏会もまだでエラは王子と出会っても居ない。
ここは物語が動き出すその前の時間…?
エラは、固まった明日香にそっと視線を向けると困ったように小さく言った。
「明日香は…今辛いんですか?」
ハッとした。
エラの心配したような顔に明日香はゆっくりと口を開く。
「辛い、かな。うん、すっごく辛いよ」
緩く笑えば、エラは何故か辛そうに顔を歪めた。
辛くないわけがない。
大切な人が死んだんだから。
…─あの夢が現実になるとは限らない。
でも逆を言えば、あの夢のようになるかもしれない。
エラが、自分と同じかそれ以上の絶望に囚われるかもしれない。
─…どうにかしてあげたいと、思ってしまった。
むしろ、自分はその為に居るんじゃないかと…─そう思った。



エラにあの後、悩みを打ち明けられた。
なんだか知らない人だと、割り切って思い切りが付くらしい。
何でも、一緒に出て行こうと言う話は何度かあったらしい。でその度に思い切りが付かなくてうんと言えないと。
自分の事を思って言ってくれてるのは分かるし、とっても嬉しいらしい。
断るのも、義母達のことは言い訳で本当は、二人だけで出て行くのが不安で怖いらしい。
後、彼の方にも家族は居てとっても仲が良いそうだ。
エラも会ったことがあるが、とっても優しくて彼女たちのことも許してくれているらしい。
そんな家族から彼を引き離すのが辛いと言っていた。
話してくれたことが嬉しくて、私はその話を真剣に聞いた。
で、細かい乙女心は男には理解できないから今話してくれたことを全部話しちゃえとアドバイスしてあげた。
それから話し合えばいいと。本心で話さないと先には進めないから、と。
素直に受け入れてくれたエラはなんて可愛いんだろうか。
私の事も聞かれたから話してみた。
─…エラには、言っても良いと思ったから。
両親がついこの間二人とも死んで天涯孤独になったこと。
実際は親戚は居たけど外面ばっかりの人たちだ。頼ろうとも思わないし、あっちも良くは思わないだろう。
友達とかも、今思えば上っ面ばっかりな付き合いだったとしみじみ思う。
私は思ったこと直ぐ言っちゃうから、自分を押さえつけて取り繕って偽って心からの友達なんて居なかったように思う。
そんなことを話した後、部屋で一人で居て気がついたらここにいてどうやってきたかも分からないと話すとエラは深刻そうな顔をして「記憶喪失ですか…」と呟いてた。
もう私の身元は疑ってないみたいだ。
でもそれで納得しちゃう辺り、ぼんやりしてるというか天然だと思う。
いろんな意味で危ない。

自分と同じ顔でここまで中身が違うというのはどうなんだろう。
複雑だ。でも確実に距離は縮んでいってると思う。なんだかとっても嬉しい。
と言うか、私もなんだか全部オープンの素でいってるから余計そう感じるのかもしれない。
元の所に居てはきっと味わえなかった気持ちだ。
ここだと何にも気にせずに素直に自分を出すことが出来る。
なんだかそれはとっても良い事何じゃないかと思った。
──眠りに落ちる意識の中で、私はここから戻れなくても良いかもと、ほんの少し頭の片隅で思った。



びっくりだ、本当に。
明日香は、目が覚めて驚いて飛び起きた。飛び跳ねる心臓に落ち着け落ち着けと言い聞かせる。
でも仕方がないと思う。──だって目を開けたら目の前に自分の顔があるんだよ?いや、エラの、だけど。しかも至近距離。
かなりの衝撃を受けた。
──落ち着け、大丈夫だ、大丈夫。
そう言い聞かせてエラを見ればスゥスゥと気持ちよさそうに寝ていた。
その寝顔に思わず頬をゆるめた。同じ顔なのだけども。──なんかナルシストみたいでやだな。
昨日夜、考えて私はエラとグランを助けたいと思った。
ううん、あの未来にならないように助けるために居るんだと思った。
だってそうじゃなきゃ私はここには必要ないはずだもの。
─…それに、今は気を紛らわしてくれるものが欲しかった。
私の知ってる物語には出てこない、エラの恋人のグラン。
グランはエラの目の前で死ぬ≠サしてそれは、顔は見えなかったけど王子の片割れがやった。
王子はあの時「邪魔者は居なくなった」と、そして「城に参りましょう」と言われて城に連れ去られた訳でしょう?
連れ去られた=結婚させられた
じゃぁ、私のすればいいことは?
「…スカ、アスカ! どうしたんですか?」
声に、横を見ればエラが目が覚めたのか心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。
どうやらまた考え込んでいてしまったらしい。昨日から多いな。
まぁ、考えなくちゃいけない事が多いから仕方ないのかもしれないけど。
不思議そうに見上げるエラに「なんでもないよ」と苦笑いしながら静かに返した。
エラとグランを守るなら、──エラと王子を出会わせなければ、舞踏会に行かせなければいい。



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