死神狂想曲
自室のベランダから空を見上げる。
―…と言ってもここの空はいつも真っ暗なのだけど。
今日は特に光の差さない暗闇。
満月が際だって輝いている。
――今日はあの日に似てる。
「…―オ、レオ」
「―っさく、や…何?」
思考に沈んでいた意識が聞き慣れた男の声で郡上する。
心配したように男は私の顔を覗き込んでいた。
「おい、何じゃねぇよ。
ボーッとしてんぞ。これから現世に行くっつうのに大丈夫か?」
「…大丈夫よ」
―少し思い出して居ただけだもの
いつまでも頭から消えない記憶を、
私の一番最初の記憶、を。
『……』
『……誰…?』
彼女は幼かった。
とても、それが訪れるには早すぎる年齢だったと思う。
『……―』
『おねぇさん私、死ぬの…?』
もう自分が何を話したのかも思い出せない。
何故自分があの場所に居たのかも思い出せない。
でも、彼女は、彼女が言った言葉だけは頭にこびり付いて離れていってはくれない。
『……―』
『…ねぇ、連れて行って』
彼女は最後笑顔だったように思う。
だからこそ、離れていってくれないのかもしれない。
『……―』
『……私を殺して』
彼女の叫びは悲痛だった。
『……―』
『最後のお願いだから、早く殺してよ―…』
彼女に何があったかは知らない。
ただ解るのは彼女は願った。
『お願いだからっ、早く殺して!死神なんでしょうっ!?』
“死神”
―彼女は私が死神であることを願ったのだ。
私に向けられた一番初めの願い。
彼女にとっては一番最後の願い。
『―…さようなら』
私は彼女の願い通り死神になった。
死神として、生きている。
私にしか、叶えられない彼女の願い。
「…朔夜行こうか」
「本当に大丈夫なのか?」
少し、笑う。
私のパートナーのこの男は酷く心配性だ。
「大丈夫よ。仕事だもの」
「…無理するなよ」
無理何てしてない。
これは私の仕事で、彼女の願い。
私の、……―生きる意味。
「さぁ、行きましょう?」
―…今宵も、迷える魂の元へ
No.1 死神狂想曲
(いつまで、私は彷徨い続けるのだろうか)
Fin