指定席


そこ≠ヘ私の指定席だった。
いや、勝手に私が言ってただけだけどね?
学校へ向かう7時10分発車の電車。
右のドアの直ぐ左横の席。
いつも開いてて、私が陣取ってる席。
それが。
──誰だこいつ。
そこに座って紙の束を見つめている男が居た。
スーツを着ているからサラリーマンだろう。かなり若いが。
眼鏡を掛けてきっちりとスーツを着込んだ几帳面そうな男。
私の視線に気がついたのか、そのサラリーマンとバチッと目があった。
視線をずらさずジッと見つめる。
──私の席なんだけど、と訴えてみる。
「…何か?」
伝わらなかった。付け足すように座らないのかと聞かれ、気を遣われたことに気がついて渋々当てつけのように隣に勢いよく腰掛けた。
むかつく。
妙にむかつく。
サラリーマンは目を丸くして私を凝視したが、私は知らんぷりして携帯を取り出す。
横目で戸惑う様子を見てフンと鼻で笑ってやった。
──ばっかみたい。
そう思ったとき。
電車がガタンと大きく揺れた。
「わッ」
その揺れで私は前のめりに倒れ込む。
何の身構えもなく、油断していたためこのままだと顔から落ちる。
──っ!
目をつぶってもいつまでも痛みはなくて。
代わりに肩に暖かな手の感触。
恐る恐る目を開けると目前にサラリーマンの顔があった。
「ッ!」
びっくりして思わず飛び退く。
「大丈夫?」
そう聞かれて頷くとサラリーマンは満足そうに笑った。
私はまた知らんぷりして座り直す。携帯に直ぐ視線を落とした。
顔が少し熱い。
──どうしたんだろう…。カゼ?
少し、音の大きい心臓を押さえて顔をうつむけた。
…驚いたからかな?
うん、そうだ。そうに決まってる。

そう、私は胸の高まりを誤魔化した。



Fin





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