死神狂想曲 3


私たち死神には、その存在になったとき
それぞれに特殊な能力が与えられる。
――導く魂の最期を幸せに過ごしてもらうために。

トッと朔夜と共に今日の仕事現場に降り立つ。
――私たちの姿は最期を迎えようとしている人にしか見えない。
でも声は、その人でも聞こえない。
「――…中田絹江87歳。心臓発作により15時38分香取総合病院にて医師に見守られ死亡予定」
「……そう」
「ん」
病室に降りたって見えたのは、一人機械に囲まれながらベットに横たわる老いた女性。
恐らく彼女が中田絹江その人だろう。
彼女の横にそろりと立ってその様子を見つめる。酷く苦しげで苦痛に満ちた表情だった。
『だ、れ?』
秘かに目がこちらに向きそう口元が秘かに動いたのを見た。
もうしっかりと言葉を発する力も無いのだろう。
レオは彼女に少し微笑むと自分がいる方とは反対側のベットの脇を指さした。
彼女はその方向に、顔を向けた途端に目を見開く。
『けいすけ、さん…?』
漏れた声は酷くかすれ、しかしとてもはっきりと耳に届いた。
彼女の目は驚きに見開かれ、ゆっくりと目が細められる。
――私に与えられた力は、その人の望む物を見せることが出来る。
幻、を作り出すことが出来る。
でもただ見せるだけで言葉を発することや、行動させることは出来ない。
――彼女が望んだのは大切な人の存在。
彼女の顔に切なそうな笑みが浮かぶ。
「朔夜」
「ん、解った」
そう返事をすると、朔夜は彼女のおでこに手を置く。
――私の力が幻を見せることなら、朔夜の力は……
彼女の顔が次第に緩み、目が潤い出す。
『けい、すけさん……』
彼女はそう呟くと静かに…――目を、閉じた。
――朔夜の力はその人のもっとも幸せだった時の思い出を見せること。
『先生!!中田さん、心肺低下しました!!』
『直ぐに処置を、急ぐんだ!!』
慌ただしく、響く音の中。
彼女はゆっくりと微笑んで、一筋涙を流した。
その刹那、彼女の胸の中心から、淡く光る薄橙の球体が浮かび上がる。
その球体――“魂”はスッと朔夜の手元で浮かび上がった。
ピーッとどこからか音が響く。
『先生!!中田さん、心肺停止しました!』
ばたばたと人が病室内を行き交う。
騒がしい音の中、私たちは音もなく窓から外へ出た。
その手にしっかりと彼女の“命”を持って。


朔夜と二人、声もなく目線で合図を出し合って、二人は空高くまで浮上する。
朔夜は手を胸の前に突き出し、手のひらを上に向ける。
その上には彼女の“魂”。淡く綺麗に光るそれ。
私も朔夜と向かい合わせになり、彼女の“魂”に手の平を向ける。
「「我等が神の名の元に」」
朔夜の声と私の声が重なり特殊な音を辺りに響かせ始める。
二人の中心にある“魂”の淡い光が強くなる。
「下の者に安らぎを」
「中田絹江に静かなる時を」
朔夜とレオが交互に呟く。
“魂”は更に光を強くする。
「「心地よい眠りを、永遠<トワ>に」」
その刹那、パアァァと“魂は”より強く輝きいくつもの小さな光の粒へと姿を変え、空へと消えていく。
最後の輝きはその魂が確実に無に帰った証。
「……おやすみなさい」


No.3 死神構想曲―眠り―
(どうか、安らかな眠りを)



Fin





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