魔女のイタズラ
あるところに魔女がおりました。魔女はあるとき暇で大きなイタズラを人間にしてしまいました。
その人間は面白く魔女は大変満足しました。人間はしかしとても怒り、魔女に言いました。
「もう、私たちに関わらないで!」
魔女は渋りましたが、やったイタズラに沢山力を使ってしまっていたためそんなに力も残っていませんでした。
なので渋々頷いて、魔女は人間に姿を見せなくなりました。
長い時を生きる魔女は、とても暇でしかたありません。暇つぶしはやり尽くし退屈しのぎにもなりません。
だからといって、何の理由もなく人間に手を出して文句を言われるのも鬱陶しく思いました。
魔女の暇つぶしはもっぱら人間観察です。時々散歩にふらりと出かけては人間を観察して、それの繰り返しです。
ある時魔女は興味を引く紙を拾いました。散歩に出たときです。
「…おや、なんだろうね」
魔女は木の枝に引っかかった白い紙を見つけたのです。それが気になった魔女は小さく力を使ってその紙を自分の元へと引き寄せます。
フワフワと浮かんで紙は魔女の手の中に収まりました。暇な魔女は今は何にでも興味を引かれます。
直ぐさま紙に目を通すとスッと魔女はその目を細めました。怪しく口元が吊り上がり、魔女は嬉しそうに笑います。
「めでたいねぇ、お祝いしなくちゃねぇ…」
小さな呟きが嬉しそうにこぼされて、魔女は急ぐようにそこから姿を消しました。
残ったのは白い紙。
それは風に乗ってフワフワとまた何処かへ飛ばされていったのでした。
「…んっ、う〜」
金の髪の青年は横たえた身体をモゾモゾと動かし、感じた肌寒さに目を開けた。
その視界に映ったのは革張りのソファで。
青年はそれを見てぼんやりとしていた頭を小さく傾けた。
どうしてこんなところで寝ているのだろうと、と思う。しかも、全く見覚えのない物だ。
それを確認すると今度は部屋の中に視線を巡らせてそこが全く知らない室内だということに気がついて、青年はガバッと勢いよく起き上がった。
その目は混乱と驚きに軽く見開かれている。
キョロキョロと室内を見て、思わずと言ったように青年は言葉を落とした。
「…何処よここ」
しかし今度は、その言葉を発した口をパッと押さえて動揺したように目を丸くし、そしてさらにジッと自分の口を押さえた手を見た後、自分の身体をペタペタと触りながら確認しだした。また、青年の口から唖然とした声が漏れる。
「どうなってんの…?」
その声は静まりかえった部屋に響いて消えた。
青年はその場でしばし硬直した後、我に返った様に立ち上がると真っ直ぐにその部屋のドアへと向かった。
直ぐにこの場を打開しなければならなかった。
捻ったドアノブはカチャリと音を立てて簡単に回り、その勢いを付けてガッと開く。見えたのは大理石の廊下とドアの横に立つ兵士だった。
思わず青年は硬直し、覗うように横に立つ兵士へ恐る恐る向き直る。
先に口を開いたのは兵士だった。
「どうかいたしましたか、クリストファー殿下」
「くっ…」
クリストファーぁ!?と言おうとし、青年は慌てて言葉を飲み込んだ。
それは自分に向けられていると分かったからだ。聞き返すとやっかいなことになりかねない。極秘にしなければ。
それに今確認すべき事は別。今の自分≠ヘどうなっているのか確かめなければならない。
青年…─クリストファーは兵士に軽く出ることを伝え、早足に歩き…─否、走り出した。
後ろで驚いたような兵士の声は聞かなかったことにする。
「っ…は、…は」
走りすぎて乱れた息を整えもしないままクリストファーは飛び込むように入った部屋の寝台に横たわる影を見下ろした。
その横たわる少女はゆっくりと呼吸を繰り返して穏やかに眠り込んでいる。
クリストファーは横たわった自分≠見下ろして安堵の息を吐き出した。
──…取りあえず生きてる。
だとすると自分≠フ中≠ノ今居るのはきっとあの人に違いない。
クリストファーは手を伸ばすと横たわった女…─明日香の肩を掴んでゆさゆさと揺さぶる。
明日香は軽く眉を寄せてうざったそうに身を捩るが、目を開ける気配はなく。
クリストファーは焦ったように声を上げて叫んだ。
「クリスっ!!起きてよっ」
呼んだその名は何故か自らの名で。
その名で呼ばれた明日香もまた、その名に反応して固く閉じていた目蓋を振るわせた。
揺さぶられる肩に、薄く目を開け……─肩を揺さぶるクリスを見て固まった。
「…なっ」
息を詰めて大きく根を見開いた目は驚愕に染まり、信じられないものを見るかのようにジロジロと見た後、瞬きを何度も繰り返してゆるゆるとクリスへ手を伸ばした。
「…俺?」
「馬鹿っ、違うから!や、違くないけど違うんだって!」
明日香は自分の言葉に即座に反応して必死な形相で叫んだクリスを数秒ジッと見つめた後、不思議そうに口を開く。
「何で俺が目の前に居るんだ?」
首を傾げながら呟いて、また数秒した後今度はんん?と眉を寄せてゆっくりと視線を自分の手に移し、しばらく見た後今度はそれを自分の身体へと移した。
そして映った黒髪とそれ≠見てまた固まる。
「…ある」
その状況を把握していないだろう明日香の小さな呟きにクリスは嫌な予感を覚えた。
明日香はにクリスに伸ばしていた手を自分の身体に向けそしてその身体にある両胸を、…鷲掴みにした。
「いやぁ───っ!!」
その行動にクリスは真っ赤になりながら甲高い悲鳴をあげて、明日香の手をその胸から引きはがす。
明日香はクリスの行動にもいま自分が触った物にも不思議そうに首を傾げ呟いた。
「本物か?」
「本物だよ馬鹿ぁ──っ!」
クリスの叫びに改めて明日香は目を覚ましたようにしたあと、泣き叫ぶ勢いで自分に張り付いているクリスに目を向けて眉を寄せる。
その表情にやっと目を覚ましたのかとクリスは安堵したが。
「なんだ、夢か?」
と、漏らした明日香にバッチーンと盛大なビンタを食らわせた。
「で、目はいい加減覚めたの?」
不機嫌を隠さないままそう言うクリスに、頬に赤い手形を付けた明日香は困ったように眉を下げて頷いた。
そして、今の状況を考えたのか厳しく眉を寄せて言葉を落とす。
「つまり、今俺≠ヘアスカの身体の中に居て、俺≠フ身体の中には今アスカが居るんだな?」
「そうよ、なんだか知らないけど中身が入れ替わってるのっ!」
泣きそうな顔でそう叫ぶクリス─…改め(中身)明日香を見て明日香…─(こちらは中身)クリスは微妙な顔をした。
その顔を見て明日香は何よ、とクリスにガンを飛ばす。
「いや、ただ自分の姿で泣き叫ばれると気持ちが悪いなと思っただけだ」
そう言うクリスに明日香はキッと睨み付けると、言い返すように口を開く。
「そう言うクリスだってね、足開きすぎ!パンツ見えてんのよ!もっと閉じなさいよはしたないっ!」
そう指摘する明日香にクリスはムッとした表情になって固い声でこちらも言い返す。
「そういわてれも、これは身体になじんでいる体制なんだ。簡単に直せるはず無いだろう」
「それを言うなら私だってそうよ!長年この言葉遣いで話してたんだから簡単に変えられるはず無いでしょっ」
二人ともムッとした表情で睨みあうと、お互いに文句を言い出し言い合いはその後、あまりに姿を現さない二人を捜しに部屋へトルトンがやって来るまで続けられた。
…─トルトンは明日香の部屋のドアを開けたまま硬直した。
部屋の中の二人はトルトンが入ってきたことに気がつく様子は無く、言い合いを続けている。
ただ、その尋常じゃない状態の二人に驚愕していた。
「だから、それはクリスが先に言ったんじゃない!」
いつもの無表情からは全く想像できないほど、怒りをあらわにしてその低い声で女言葉で話す王子クリストファー。
「知らんと言っているだろう!」
一方、普段から考えられないほど無表情に、その中でも不機嫌さをしみ出させ、その高い声で威圧するように声を出すアスカ。
ギャイギャイと自分に気が付かずに騒ぐ二人の様子は全く理解できなかった。
そして意味のわからなさと、自分に気がつかない二人に苛立ちを覚え始めたトルトはズカズカと室内に踏み込むとにっこりとした笑みをその顔に貼り付けて、二人の間に割ってはいる。
二人は突然の部外者の登場にムッとしたままの表情でトルトンを見上げ、しかしそこに張り付いた笑みを見てぴしりと固まった。
「お二人とも、いい加減にしてください?」
疑問系ながら、そのオーラはまさにいい加減に城やコラといった雰囲気で、騒いでいた二人は一気に沈黙したのだった。
そして、二人からある程度の事情や現状を聞いたトルトンは少し考えた後シラッと言い放った。
「また魔女のイタズラじゃないですか?」
しばし、その場を沈黙が包んだ後、明日香の低いクリスの声での叫び声が上がった。
「あぁああああ────────っ!!!」
「そう言われてみればそうだな」
納得するように、頷くクリスの横で明日香はショックを受けたように青ざめて座り込んだ。
そのあまりのショックの受けようにクリスとトルトンは首を傾げた。
「そんなに落ち込むことか?死んだ訳じゃないんだし」
「戻る方法は絶対探せばありますし、大丈夫ですよ」
そう言う二人に明日香は、キッと睨み付け地を這うような声で言い放つ。
「…あまい」
すっと立ち上がると捲し立てるように口を開いた。
「相手はあの魔女よ!もし戻れなかったどうするきよっ」
そう叫ぶ明日香にクリスとトルトンは考えるように順に言葉を落とす。
「それは何か方法を探すしかないだろう」
「そうですね、それまではお互いがお互いの振りをして居れば良いんじゃないですか?」
あまりに楽観的で、のんきな男達の意見に明日香はさらに叫ぶ。
早急に解決しなければならないと言うことを伝えるために捲し立てるように言葉を次々に落とした。
「あまいあまいあまい!
私にクリスの仕事しろって言うの?私まだ字掛けないんだけど!礼儀作法もまだまだだしっ第一クリスの無表情まねるのなんて私には無理っ!
剣は使えないし、馬にも乗れないしっ!お城の人の名前把握してないし、道も分からないわよっ!第一トイレは、お風呂は!私にどうしろって言うの!?
クリスだってそうよっ!私の顔でその無表情でいるき?毎日スカートよ!トイレとかお風呂とかどうする気!?女官さんが毎日身体の隅々まで洗ってくれちゃって服まで着替えさせられるんだけどっ!お腹はコルセットで閉められるし、それで過ごせるの!?」
はぁはぁと肩で息をしながら言い切った明日香は自分で言った内容に自分で不安を抱き始めた。
そうよ、そうよね。どうしよう本当に。
トイレもそうだけどお風呂も着替えもっ!
そう考えて朝、私(身体の方)の胸を鷲掴みにしたクリスを思い出す。
そうしてサァーと青ざめた。
お風呂、身体見られる、あの調子じゃなにやらかすか分かったもんじゃないっ!
想像して身もだえる明日香をよそにクリスやトルトンも指摘された内容に考えを巡らせた。
(アスカ様が無表情で王子が表情豊か?…最悪だな。気味が悪い)
(あぁ、確かに…スカートにコルセットは嫌だな)
お互いがお互いにおかしなところで危機感を抱き、緊急事態であることをやっと認識した。
そして視線を明日香に戻しその先に移った物に、一方は笑いを耐えるように肩を振るわせ、一方は眉を寄せた。
その先にはクリスの姿で苦悶の表情を浮かべ、身悶えしながらのたうち回る明日香が居て。
((…これは、まずいかもしれない))
と二人は思ったのだった。いろんな意味で。
取りあえずいつまでも明日香の寝室にいるわけにはいかず、仕事のこともありトルトンの提案で完全に人払いが可能なクリスの執務室へと移動した。
クリスは明日香の姿のまま書類と向き合い、明日香はクリスの姿のまま室内のソファへ座り込んでいた。
ちなみにクリスは女官が準備した服を着ている。コルセットは着けていない。
明日香はいつも通りのクリスの格好だ。動きやすくて便利だとつくづく思う。
トルトンはそんな二人の様子を違和感と共に見つめその奇妙さに薄く笑みを浮かべてクリスの後ろに立っている。
「…魔女、探すしかないわよね」
「そうですね」
「あぁ」
明日香の呟きに男二人は短くそう返す。
その中も、クリスの手は止まらず動き続け、トルトンは微動だにしない。
明日香はその状況に焦りを感じるが、何か分かったわけではないし急ぐなと自分に言い聞かせた。
しかしやはりそう簡単に、焦りを解消することはできず。
明日香はフッと立ち上がると、ドアに向かった。
「どちらへ行かれるんですか?」
トルトンの声に明日香は振り向いて口を開いた。しかし、出た声は言葉にならず。
「おでっあう゛ぅ」
ガンッと大きな音が室内に響き、静まりかえる。
明日香はいきなり何かが後頭部に当たり、その痛みに頭を押さえてしゃがみ込んだ。
その後ろには半開きにされたドアがあり、その先には青ざめた兵士が居た。
詰まるところ彼が開けたドアが明日香の後頭部にヒット下のだ。
静まりかえった雰囲気の中一番始めに動き出したのはクリスだった。
しゃがみ込んだ明日香の元へ掛けだして、その頭を撫でる。
「大丈夫か?」
「うぅ〜、痛い」
明日香は涙目でクリスを見上げ、口元を痛みに引き結ぶ。
そこで我に返ったのか兵士の声が割り込んできた。
「も、申し訳ありません殿下!」
「い…」
クリスはいやと反応しそうになった声を咄嗟に飲み込む。
その殿下という言葉が今は自分を指しているわけではないと思い出したからだ。
明日香は兵をしゃがみ込んだまま見上げて、眉を寄せる。
その顔を見た兵は、目を見開いて思わずと言った風に言葉を落とした。
「で、殿下が…泣いている?」
その言葉にハッとしたのは明日香だ。
直ぐにスッと立ち上がると、兵を見据えていった。
「いや、気のせいだ」
「殿下?」
「気のせいだ」
「は、はぁ」
兵は気の抜けた声を出し、明日香はいつものクリスを必死に思い出しながら兵を見据えた。
無表情でいるのは正直無理なので眉間に皺を寄せ、口元を引き結んで不機嫌そうな表情を作る。
その顔に兵は怒りを買ったと思ったのか青ざめたが、自分が何のために来たのか思い出したのか佇まいをただして口を開いた。
「で、殿下緊急に場内の食堂に来ていただきたいのですが」
その言葉に反応したのはクリスだ。端から見たら明日香だが。
「なんだ、何か問題か?」
いきなりクリス(姿明日香)に聞かれて戸惑ったのは兵士だ。
「あ、はい。実は食堂で食事をした者皆ぼんやりと反応が薄くなりまして。
自分はまだ食べて居らず、食堂に行ったときその異変に気がついて医師を連れてきたのですが原因不明で。殿下に指示をいただきたく参りました」
クリスは眉を寄せ、少しの間考え込んだ後直ぐに口を開いた。
「分かった、直ぐに向かおう」
「は、はぁ」
兵は返事をするクリスに戸惑ったような声を上げ、クリスと明日香の顔をキョロキョロと見比べた。
そんな兵を置いて明日香達は問題の食堂へと走り出す。
「…問題が多い日だな今日は」
「それよりも王子、あなたは今アスカ様なんですからね。
アスカ様がやっているように、しっかりと振りをしてください」
「……」
明日香は走りながら普通に話している二人にチラリと視線を向けた後直ぐに前を向いた。
良く普通に話せるよね、これが経験の差?
等と考えていたのは誰も知らない。
そして、食堂。
明日香は肩で息をして横に立つ二人を見る。全く息が乱れていなかった。何故だ。
トルトンはともかくクリスは私の身体なのにっ!
明日香はそんなことを思いながら食堂内に視線を向けた。
確かに…
「様子がおかしいわ…な」
慌てて語尾を言い直し、呟く。
食堂内は様子がおかしかった。
料理人達は既に避難(?)したのか、中にいるのは様子のおかしくなった者達とその状態に困惑している何人かの兵だけのようだった。
その皆が一様にはっきりとした表情をしておらず、何処かぼんやりと何もないところを眺めている。
しかし変化は直ぐに訪れる。
「…気味が悪いな。一体何が原因だ?」
クリスがそう呟いた途端だった。
グリンっと、音が出るならそう聞こえそうなほど一斉に食堂内にいた者達の首がこちらに向いたのだ。
──正直、気持ちが悪かった。
さすがのクリスもピクピクと顔を引きつらせている。
それも当然と言えそうなもので、向けられた目は全てクリスに向いているのだ綺麗に。
思わずクリスの周りにいた人が、私も含めジリジリとクリスから離れていく。
そんな空気の中、誰かが呟いた。
「女、だ」
その一言を切っ掛けに、小さな呟きがいろいろなところから漏れ始める。
それはやがて、部屋を一杯に満たし始める。
そしてまた、一人がゆらりと立ち上がると次々と続くようにまた一人また一人と立ち上がりゆらゆらとクリスに向かって歩き始めた。
その光景はさながらホラー映画のようで。
クリスは顔を盛大に引きつらせると、唖然としていた正気の者達に向かって叫び声を上げた。
「し、食堂を封鎖しろ!けして女だけは近寄らせるなっ!!!!」
「「「はっ!」」」
中にいた正気の者達はクリスの指示に直ぐさまに返答をし、素早く動き出す。
その動きはさすがとしか言いようが無く、とても迅速だった。
そんな中、クリスに近寄っていた兵の一人がクリスに向かって飛びかかった。
クリスはそれを綺麗に避けた。しかし、クリスは忘れていたのだ。自分がスカートをはいていたことに。
「っあ!?」
横に動かした足はスカートを踏みつけ、クリスは横に転倒した。
直ぐに起き上がろうとしたが遅く、その上に兵の一人が乗りかかる。
その表情は何処かうっとりと自分を見つめ、クリスは背中に寒気を感じて身震いした。
「…柔らかい、身体…唇…」
そして漏れた呟きと、近づいてくる兵の顔にクリスはさすがに何をされそうになっているのか気がついた。
「っ」
せり上がってきた悪寒と男の顔のドアップに、クリスは容赦なくその男の…─急所を蹴り上げた。
「ぐっうぅ」
兵は声にならない叫びを上げて、どさりとその場に気絶する。
クリスはその身体を押しのけて、捕まらないよう素早く起き上がった。
が、次々と襲いかかってくる兵達に段々と怒りがつもり。
─…ついに、切れた。
「貴様らぁ──っ!!いい加減に正気に戻れぇ───っ!!!」
その数分後、怒りに燃えたクリスと、途中から楽しそうに参戦しだしたトルトンによって食堂には屍の山が出来ていた。
クリスは青ざめた顔で、その場にしゃがみ込む。
明日香は治まった(?)らしい事態にクリスに駆け寄りその背中を撫でる。
「大丈夫?クリス」
「…大丈夫じゃない」
とてつもなく気持ちが悪かった。
触れるかというほどまで迫った男の顔が脳内から離れず、クリスはこみ上げる悪寒を必死に押さえるためにしばらくその場でもだえ苦しむ事になったのだった。
そんな横で、トルトンは意識を失って倒れた男を揺り起こしていた。
揺り起こして…
「目を覚ましなさい。私の言うことが聞けないんですか?」
揺り起こして…、居なかった。
その温度が下がるような冷えた笑みに悪寒でも感じたのか、兵はガバッと飛び起きてキョロキョロと辺りを見回す。
そしてその視界にしゃがみ込むクリスを見ると青ざめて凍り付いた。
そんな様子の兵の顔をトルトンはのぞき込む。
「覚えているんですね?」
「は、はい!わ、私どもはなんと言うことを…」
青ざめる兵にトルトンは考えるように瞬きすると、静かな口調で聞いた。
「何を食べてこうなったか分かりますか?」
兵は一瞬思い出すように遠い目をし、しかし直ぐに声を上げた。
「さ、サラダです!アレを食べたら急に頭がぼーっとなり出して…」
「分かりました」
トルトンはそれだけ言うと、テーブルの上にあったサラダを見て、軽く眉を寄せたあと調理場へと足を向けた。
一方、落ち込んでいたクリスは何とか気を持ち直して、一人目を覚ました兵の元へトルトンと入れ替わるようにして向かう。
兵は向かってくるクリスを見て直ぐさま土下座をする勢いで頭を下げた。
と言うよりも実際土下座した。
「申し訳ありませんっ!アスカ様に何という無礼を…」
今にも切腹しますと宣言でも始めそうな兵の勢いにさすがにクリスも驚いたが直ぐに薄く笑って頭を上げるようにいった。
…その表情は兵からは、まるで優しげな聖母のような表情に見えた。
「大丈夫だ。気にするなお前のせいではない」
そう言いながらクリスはひれ伏す兵の背中をポンポンと叩くと、その手を引っ張って立ち上がらせた。
兵は少し戸惑いながらそれに従う。
クリスはその様子に満足したように頷くと、食堂全体へと指示を飛ばした。
「…動ける者は、意識を失った者を起こせ!怪我をしているなら治療してやれ!
まだ正気に戻っていないようなら被害が出る前に再度気絶させて医務室へ運んでおくようにっ!」
「「「はっ!」」」
クリスは素早く帰ってきた声と動き出した兵達に満足げに笑うとトルトンが向かった調理場へと明日香と向かった。
兵はその後ろ姿を見て、ぼんやりと呟いた。
「何てお強く、可憐な方なんだ…」
その瞬間クリスの背に悪寒が走ったが、クリスは考えてはいけない気がしてそのままをしてスタスタと歩いていった。
明日香、クリス、トルトンの三人は目の前にそびえ立つお化け屋敷のごとき建物を見上げた。
そしてこの後何が起こるのかという不安と共に疲れたため息を吐き出したのだった。
あの後、調理場の野菜置き場で発見した一枚の紙。それには挑発するかのごとく原の足す文章が書いてあった。
【やぁ、小娘達楽しかったかい?最近は刺激もなくてつまらなかっただろうと思ってちょっぴり私特製の薬を盛ってみたよ。
中々面白いものだろう?】
ここまで呼んで密かにクリスの身体が震え始めた。
トルトンと明日香はそれを見なかったことにしてさらに読み進める。
【あぁ、あとどうだい入れ替わってみて。
それも新作の魔法なんだけどねぇ。楽しいだろう?記念にあんた達に掛けてあげたよ】
この辺りで明日香の身体も震え始めた。
トルトンは一人知らない振りをして読み進める。
【戻りたいなら私に会いにおいで。街外れの貴族の屋敷の廃墟にいるからね】
明日香とクリスは震える声で漏らす。
「…会いたくネェよ、ババァが」
「おのれ…」
漏らすがしかし、続けられた言葉にそれも萎えた。
【追伸。紙で指示を出すけどねそれには従うんだよ。じゃないとどうなっても知らないからね】
意味ありげに残された言葉に、今の状態を思い出して逆らう気力は沸いては来なかった。
そしてやって来たこの屋敷。
どろどろとして今にも幽霊でも出てきそうな外観に怯みつつ、ギイィィと嫌な音を立てるドアをゆっくりとクリスが押し開いた。
その瞬間、暗かった屋敷にパッと灯りが灯る。
「っ」
急に明るくなった視界に移ったのはでかでかと天井からつり下げられた紙だった。
ここまでされると怪しさも何もない。
「何だこれは…」
呆れたようにクリスは漏らし、トルトンは少し警戒するように当たりを見回した。
「…ねぇ、馬鹿にされてるのかしら私たち」
そう言った明日香に返ってきたのは沈黙だった。
ため息を吐いて明日香も紙へと視線を移す。
しかし、その字を理解することは出来なかった。
明日香のためにトルトンがその内容を読み始める。
【良く来たね、小娘達。
さてそれではゲームをしようじゃないか。
何、簡単だよ。私が部屋を指示するからそこに行ってその部屋にある御題をクリアすればいいのさ。
ほら、簡単だろ?
最後の部屋までたどり着けたら魔法を解いてあげるよ。
あぁ、しらみつぶしに部屋をあさって行こうなんて考えるんじゃないよ。
そんなことしたら、反則にするからね。
しっかりと紙の指示に従うんだよ。】
そこまで呼んでトルトンはひと息ついた。
それにしても魔女はやっぱり余程暇なのかもしれない。何だ、遊んで欲しいのか。悪筆過ぎるぞ。
続きを読んでと、トルトンに視線をやると、何故か彼は微妙な顔をして口を開いた。
明日香は首を傾げつつ耳を澄ます。
【早速はじめの指示だよ。最初の部屋は…─】
トルトンの声が止まる。
目を向ければ、クリスもトルトンも同じような顔をして黙り込んでいた。
首を傾げて紙へと視線を移す。そしてその字を見た途端、明日香は信じられない思いで目を見開いた。
「この字見たこともないんですよね…」
トルトンの声が後ろで聞こえた。明日香は小さく呟きを漏らす。
「…1-ま」
「「いちのま?」」
こうして、部屋の探索係が決定した。
思うに、多分あれは1階のま≠ニ言う部屋という意味だと思う。
ホテルとかでも205という風に表すのと一緒で、最初が階数で最後が部屋の名前。ホテルとかでは間で0をはさむけどこれは横棒を0の代わりにしてるんだと思うのだ。単純に。
そしてたどり着いたこのドア。
そこにはデカデカと日本語でま≠ニ書かれた張り紙が貼り付けてあった。
あっているかはわからない。
クリスを見てもトルトンを見ても目で足してくるだけで、代わりにドアを捻ろうとはしてくれない。
明日香はゆっくりと唾を飲み込んでドアノブを捻った。
…結果として、なにも起こらなかった。普通の部屋でむしろ拍子抜けした。
何もないと分かるとクリスもトルトンもズカズカと室内を荒らしだした。卑怯者達め。
──そうして見つけた白い紙。
まずクリスが目を通し、なんだか微妙に首を傾げた。
「どうしたの?」
「…いや、取りあえず読むぞ」
その反応に眉を寄せつつ静かに明日香は耳を傾けた。
【正解だよ、よく分かったね。
じゃぁ、最初の指示だよ。よくお聞き。
かめはめ○≠習得しな】
明日香はその言葉に固まる。
かめ○めは
○めはめは?
カ○ハメ波ぁ──っ!!?
「出来るかぁぁぁぁあ──っ!!」
いきなり叫びだした明日香にトルトンとクリスは驚きの視線を向ける。
明日香はそんなことも気にしないで頭を抱えた。
かめはめ波ってなに!?不可能でしょ?
あんなもん打てるわけ無いでしょうが!
というか何で知ってんだよっ!
そんな明日香をよそに、何もない空間から一枚の紙がヒラリと張り出された。
トルトンとクリスは一瞬目を見開いたが、気にしないことにしてその紙に目を通す。
【冗談だよ】
その言葉に明日香の動きが止まった。そして脱力したようにその場にしゃがみ込んだ。クリスが心配げな視線を向ける。
明日香はそれをみて、力なく続けてくださいと呟いた。クリスは心配そうにちらちらと明日香を見つつ続きを読み上げる。
【最初だからねサービスだよ。
あと、残念だけど次の部屋からは指示だけ出すからね。
次の部屋は─…】
そして読めなかったのか、紙を明日香に見せる。
明日香は視線を走らせて疲れたように言葉を落とした。
「…3-ゆー」
「さんのゆ、3階か」
クリスは呟くとへたり込んだ明日香を引き上げてポンポンとその背を元気づけるようにたたく。
明日香はため息を吐きながらも次の部屋に向かって歩き出した。
そんなこんなで部屋を廻りはや何時間。
もうとっくに日は沈み、窓の外は暗闇に包まれている。
魔女の冗談やらからかいやらを交えながら御題を制覇し続けていい加減、精神的にも体力的にも限界が近づいてきている。
結局一日中こんなばからしいことをやっていたことになる。
明日香はそれを考えてげんなりとした。
そしてもう何十部屋目にかになる部屋のドアを見上げると、ゆっくりとノブを捻った。
今度の室内は客室だったのか心なし豪華な作りの部屋だった。
紙の場所は回数をおう事に地味に見つけずらく、なっていっていた。
なので、全員で部屋をあさる。
比喩でなく、言葉の通りあさる。
「…あぁ、ありましたよ」
ぽつりとトルトンが控えめに声を出した方を向けば、彼はテーブルをひっくり返していた。
それに少し眉を顰めて近寄る。
「テーブルの裏にあったのか…」
クリスが呟く。
今回の紙はテーブルの裏に貼り付けてあった。中々見つからないはずだ。
御題を思うと憂鬱になる。
御題は人を指名したりもしてくるのだ。クリスだったり明日香だったりトルトンだったり、ペアだったり。
逃げられない。
トルトンが目を通したのか、口を開く。
しかし、その顔が面白そうに私を見たのは気のせい…?
嫌な予感がしつつ、受け流す。こんな予感、今日の内に何度感じたかもう分からないしキリがない。
何でこんな思いしなくちゃ行けないんだ、本当に。
【小娘と王子、お互いに愛を叫びな】
シーンと室内の空気が凍る。
何?何だと!?
「な、なに?」
クリスが唖然と声を漏らす。今、きっと心は同じだ。
トルトンはにこやかにもう一度紙を復唱すると、言った。
「私は隅の方にいるので、お気になさらずに」
そう言って部屋の隅へと歩いていく。明日香とクリスはその後ろ姿を唖然と見送り、そして顔を見合わせた。
沈黙が首をもたげる。
トルトンの視線がチクチクと突き刺さる。明日香は背中をだらだらと冷や汗が流れるのを感じた。
─…な、何の羞恥プレイだぁ───っ!!!
気まずい沈黙を打ち破ったのは、クリスだった。
「…言うしかないか」
ぼそりと呟かれた声は意外に室内に響き、クリスはジッと視線を明日香に合わせる。
思わず叫びそうになってそれを飲み込む。
ここで、ここで言うのか!!?
それにその姿で!?私自分に告白されるの!?
クリスは、ゆっくりと息を吸い込み口を開いた。
「…愛している、アスカ」
アスカの顔に血が上り、ボンッと音がしそうなほど真っ赤になった。
心なしかクリスの顔もほんのり赤くなる。
その様子をトルトンは微笑ましそうに観察していた。
クリスは真っ赤な明日香へと視線を移す。
自分の姿で真っ赤になって狼狽えている明日香の姿は、妙に違和感がありすぎて眉が勝手による。
何であれ、この状況は早く打開しなければならないのだ。精神的にも耐えられない。とクリスは思う。
「…俺は言ったぞ」
促された明日香は焦る。
しかし、周りを見回しても誰かが助けてくれるわけはなく。
愛の告白?愛を叫ぶのっ?
愛してるって?
どうやって!?
ジッと正面から見つめてくるクリスを見つめ、明日香は思う。
む、無理!
「…っうぅ」
「早くしろ」
自分の姿のクリスに言葉を催促される。
愛、愛、アイ、アイあいあいあい…。
頭が沸騰しそうになり、明日香はやけくそ気味に一歩を踏み出した。
そのままの勢いで目の前のクリスに抱きつ…、抱きしめる。
いつもとは全く逆な立ち位置に拭いようのない違和感を覚える。
明日香はクリスのその首元に顔を埋めて、顔を隠しながら声を上げた。
「あ、あああ愛してますっ!」
見事に真っ赤になりながら言った明日香は素早くクリスを突き飛ばすような勢いで離れ、その真っ赤さのまま部屋の何も無い心なし上の方の空間へ叫んだ。
「言ったよ!これで良いでしょ!!?」
恥ずかしすぎて死にそうだ。
明日香は睨み付ける空間から紙が吐き出されるのを見て、苦々しくその紙を受け止めた。
見ても読めないのは分かっているので、近くにいるクリスへとそれを突きつける。
直接顔を見るのは無理だった。
【まぁいいよ。妥協してあげるかね】
そんなふざけた事を言う魔女を脳内でボコボコにしつつ、明日香は紙をのぞき込む。
最後だけは自分しか読めない。
そしてそこにあった文字に眉を寄せた。
「…1-…ま?」
それは一番最初に入ったあのカメハ○波の部屋だった。
1-まに舞い戻るが、その中に新しい紙が置いてあるわけではなく。
明日香達は念のため部屋中を探し回った。
が、紙は見つからなかった。
「あぁ───もう、何処にあるのよ!」
明日香は室内にあったベットに倒れ込み、叫んだ。
もう嫌だ。
何なんだ今日は。
トルトンとクリスはその様子を苦笑いと共に眺め、自分たちもソファへ腰掛けた。
「部屋が間違ってるって事ですかね?」
「そうなんだろ、多分」
自信なさげに答えるクリスは考え込んだ。
明日香はむくりと起き上がり、もっていた紙を見る。
「でも間違いなく1-ま≠チて書いてあるもん」
「いちのま≠ネぁ?1階、まの部屋なんだよな」
口をとがらせる明日香に、クリスはあごに指を当て考える。
字が読めないために、発音は微妙な感じだ。
クリスはいちのま、いちのまと口の中で切り返し思った。
「実際、1階のまの部屋じゃなく一の間(いちのま)≠チて部屋があるんじゃないか?」
「だって、屋敷中回ったけどそんな部屋無かったじゃない」
明日香の言葉にクリスは黙り込み、また考え出す。
代わり今度はトルトンが口を開いた。
「今までは何階の何の部屋でしたけど、引っかけで変えたんですかね?」
「そうじゃない?魔女だし」
明日香の投げやりに言葉にトルトンは首を傾げる。
「暗号…、言葉遊びですかね?」
「言葉遊び?」
「えー?じゃぁ例えば?」
クリスが顔を上げて繰り返し、明日香が問う。
トルトンはそんな二人を見ながら、苦笑いして小さく言った。
「…いちのま≠ナ最初と最後の文字を取っていま=cとか?」
明日香が眉を寄せて、黙り込む。
クリスはスッと立ち上がるとトルトンを見て言う。
「行くぞ」
「…行くんですか?」
トルトンが少し驚いたように言う。
明日香はクリスに同意して頷いてだらけた雰囲気は何処へ行ったのか、ベットから飛び降りて言った。
「まだ一度も入ってないし、何かそんな気がしてきた」
それにもう可能性あるなら言ってみた方が良い気がするしと呟いて、ドアノブを捻る。
…へたな大砲数打ちゃ当たる。
まさに、そんな雰囲気だった。
明日香は、新たに開いた居間のドアのドアノブを掴んだまま唖然とした。
トルトンが軽く目を見開き、クリスは頷きながら言った。
「本当にここだったな」
部屋の真ん中。テーブルの上にドンッと置かれたどこか宝箱のような箱。
その箱にはど真ん中にヒラヒラと紙が貼り付けられていた。
明日香はなんだか気の抜けた気分で室内に入り、辺りを見回しながら箱に近づいて紙をのぞき込んだ。
そこに今度は読める文字は一つもなく。
横からクリスが顔を覗かせた。
【よく頑張ったね。
ここが最後の部屋だよ。
最後の御題は簡単、この箱を開ければ良いだけさ。
鍵は掛かってるけど、直ぐ横に置いてあるからね。】
その内容のあっけなさに、皆眉を顰める。
何かある気がしてならない。
しかし、開けないわけにはいかず。
明日香は手っ取り早く、紙の通り直ぐ側に置いてあった鍵を引っ掴んだ。
クリスもトルトンも何も言わないので、そのまま鍵穴に差し込む。
微妙に手が震えるが、それはやっと解放されるという安堵からだ。
しかし、鍵を捻ったカチという音はそれを上回る音にかき消される。
パアァ──ン!!という大きな破裂音と、白い煙が、鍵を回した途端に部屋に響き渡った。
箱は開いている。
何故か部屋に紙吹雪が綺麗に舞っていた。
そして、煙と紙吹雪の舞う部屋の中心。
箱から旗が飛び出していた。
はためくそれを明日香達は茫然と見上げる。
「…何、どういう……?」
立ちつくして漏れた声に説明できる者は居なく。
三人が見上げたその先、はためく旗に文字が書かれていた。
【サイト10000HITおめでとう☆】
それにはそう、書かれていた。
意味が理解できず、否、あまり理解したくなくて眉を寄せる。
その中で、三人は宙を舞う一枚の紙を見つけた。
恐らく紙吹雪と一緒に吹き飛ばされただろう紙は、角が少し焦げ付いていた。
降りてきたその紙を、トルトンが受け止め素早く目を通す。
…─その眉間には深く皺が寄り、いつもの笑みは何処かに消えていた。
それを見て明日香は嫌な予感を覚える。
そしてトルトンはゆっくりと低い声でそれを伝えた。
【追伸。
お疲れ様だったよ。
どっかのサイトが10000HITを記録したって言うんでねぇ、お祝いだよ。
なかなか楽しかっただろう?
ちなみに、身体だけどねぇ。
今日の12時きっちりに何もしなくてもちゃんと戻るようになってるよ。
残念だねぇ。またいつかかけてあげるよ】
明日香は、眉間に皺を寄せそれを聞いた。
何度も頭の中で繰り返し、かみ砕いて理解しようとする。
否、頭が理解するのを拒否していた。
横でクリスの身体が震えている。
トルトンは持っていた紙を無言で破り捨てた。
そしてしっかりと、今度こそ言葉を理解した明日香は怒りに身体を震わせた。
「ふざけるなあぁぁぁぁああぁぁぁぁあああっ!!!!!」
廃墟中に、男の叫び声がこだました。
その後、本当に12時に身体は元に戻り、明日香達三人は脱力と疲れで、倒れ込む。
そして誰かが呟いた。
「こんなHIT記念は、やめてくれ」と。
それは作者のみぞ知る。
この後トルトンの機嫌はしばらく最高に悪く、城の何人かが八つ当たりの餌食となる。
クリスはしばらくこの日のことがトラウマとなり、男の顔を直視できなくなった。
あとこの日、城の中に明日香のファンが急増したのはちょっとした余談である。
Fin